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長距離輸送業者と女泥棒の話(仮題):第三部


ラヴァク宙域紀行文

 ラヴァク宙域を一度でも訪れたことがある旅行者ならば、星間に時折垣間見える、あの美しくはかない赤い光が、連綿と何光年にもわたって続く光景を懐かしく思い出すことだろう。
 あの独特な赤い輝きの帯の正体は、ラヴァク地方独特の混合星間ガスで、当地では『海賊海流』と呼ばれているものだ。そしてその赤は、かつてのこの地での出来事を象徴しているようでもある。そう、私には、あれが激しい闘争心の赤であり、その結果もたらされた血の赤でもあるかのように思えてならない。
 太古の時代から、ほんの何百年か前までの間、ラヴァク宙域における主力産業は宇宙空間での掠奪行為であった。
もちろん、現在では、そこまで危険な目にあうことは無いだろう。少なくとも、シャロウ・ラヴァクに滞在している間ならば、という注意書き付の意見ではあるが。
 ラヴァク宙域はビューダン宙域すなわち我々の方から見て、手前と奥に分けて考えることが出来る。手前の区域がシャロウと呼ばれる一帯で、より奥に位置するディープ・ラヴァクに比べれば、近代化されており、洒脱であり、治安も比較的安定していると言えよう。
 とはいえ、それでも、ご婦人方の夜間の一人歩きや、あるいは紳士諸君におかれても貴重品をじゃらじゃらと見せびらかすようにしながら街を闊歩するのはお薦めできる行為では決して無い。果てても枯れてもここは海賊の国であることをゆめゆめお忘れなきように。
 しかし、それは旅行者としての常識の初歩の初歩であろう。なにもラヴァク行きの者だけが注意すべきこととは言えないのである。
 翻って述べるならば、現在のシャロウ・ラヴァクは旅慣れた人々ならば、十分に楽しめる。
 なにしろかの地には、ビューダンにはない歴史、伝説が満ち溢れ、そこに付帯する冒険やロマンスといったサイドストーリィには事欠かない。
海賊海流に眠る古代の沈船探訪ツアーもいいだろうし、伝説の彷徨える海賊城に思いを馳せるのもいいだろう。かつての古戦場を巡り、古い戦船のかけらを拾い集めれば良い旅の思い出にもなるだろうし、単にエキゾチックなリゾート気分を味わいたい向きには、惑星ダバラの観光施設が五つ星のお薦めといえるだろう。
 また、意外に思われるかもしれないが、ラヴァクには学術という別の側面もある。これは、この地に根ざす強烈な個人主義の発露の一つともいえるもので、その進取の気鋭が時おり天才的な発明家の類を生み出すのである。とはいえ、多くの場合、それらはつねにばらばらで、複合的な応用には結びつかないのも一つの真実ではあるが。
 しかし、かれらの武器の発明に対する熱意に興味をもたれるならば、武器兵器博物館も欠かせないポイントとなるだろう。ラヴァク人の秘めたる情熱に触れたいのであれば、なにをもってもそこの収蔵品に触れるのが一番といえよう。

[スペーストラベル・ジャーナル ラヴァク宙域特集号]冒頭文より


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