ホーリィは、ヤングドワーフがおかれている建物から抜け出して、少し離れた場所にある、さきほどよりはずっと小さい倉庫のような別の建物に逃げ込んでいた。いくつも積まれたコンテナの影で、身を隠すように方膝をついてかがみこみ、あたりの様子に耳を澄ましながら、つい今しがたアレックス達から取り戻したばかりの自分の持ち物を点検していた。
今や野営地は警報がけたたましく鳴り響き、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。遠くで兵士達の交わす怒号を聞きながら、ホーリィは呟いた。
「グルービーに追っかけまわされるロックスターってのは、こういう気分なのかな。でも、今日のファンの子たちは、ちょっと騒ぎすぎなんだよなあ。」
床に置いてある無骨なメカニカルリボルバーの中からエスが答える。
「よく言うわね。騒ぎを起こしたのは一体誰なの?」
「強いて言うなら、君かな、エス。」
そういいながらホーリィは、ショルダーホルスターを身につけ、それから、スタイルヘルガーをそこへ収めた。ついで、通信端末を左手首に巻きつけてささやくように言った。
「聞こえるかい、ケイ。そっちの首尾はどうだい?」
少しの間をおいて、いつもの口調でケイが返答した。
「今、ヤングドワーフの運転席ですよ、ホーリィ。ただ、始動プロセスが改変されているようですね。ヤングドワーフを動かすには、初期化して、再起動が必要です。」
「よろしく頼むよ。それから、各コントロール系統の点検と気に入らない改変部分が他にもあるかどうか調べておいてくれないかな。」
ケイは、分かりました、と短く伝えると通信を断った。
「で、これからかどうするわけ?」
「帰るのさ。挨拶はすんだからね。」
そう言うとホーリィは、吸いかけのチャーチル&キッシンジャーを取り出して、オイルライターで火をつけた。暗がりが一瞬明るくなり、傍らにおかれているコンテナに記載された文字が、ホーリィの目に飛び込んできた。
「なんだい、こりゃ。第四十八番発掘区画出土品? エス、最近の考古学者ってのは、スコップやツルハシの代わりに、ブラスターライフルで発掘するのかな?」
その時、ホーリィ達がいる倉庫のドアが大きく開かれ、数人の兵士達が身をかがめながら突入してきた。兵士達は、この建物にホーリィがいると確信しているわけではなかったが、ここにいない、と思い込んでいる訳でもなかった。訓練で身に付けた、室内における索敵行動を行い、この建物に異常がないかどうかを見極めること。それが、目下の彼らの任務だった。兵士達は油断のない目つきで暗がりを伺いながら、積み上げられたコンテナ群を遮蔽物にしながら展開し、逃亡者が潜んでいないかどうか調べ始めた。
ホーリィは、点けたばかりのチャーチル&キッシンジャーの火口を慌てて左手で覆い隠した。手のひらに燃える先端が触れ、思わず顔をゆがめた。
ケイは、ヤングドワーフの起動プロセスが再起動するのを待つ間、手早く他のコントロールルーチンをチェックしていた。まずは、センサー系統を生き返らせてヤングドワーフの目と耳を回復させ、それからネットワーク網へのアクセスラインを…。
「おい、そこでなにをしている?」
一人のグランビア軍兵士が窓の外からスモークシャッターガラスをコツコツと叩きながら不信な目つきで運転席に腰掛けている軍用メカロイドを覗き込んでいた。
ケイはメカロイドのメモリバンクにある手順書に電子の速度でアクセスし、通常時応対プロトコルの説明を理解すると、即座にそれに沿って行動した。
「指令コード2452です。」
兵士のイヤープラグに個性のない音声合成音が響いた。とりあえず返答はしたものの、命令自体はとっさにケイがでっち上げたでまかせだった。
兵士は柔らかなワイヤースプリングで腰のベルトとつながれた、携帯端末装置のキーを右手親指ですばやく叩いた。
「そんな指令は出てないぞ?」
その時ケイは、ヤングドワーフのアクセスライン系統が回復したことを感じた。すばやく野営地内のどこかにあるコマンドセンターへのアクセスを開始しながら、別のタスクで、兵士のイヤープラグに再度話しかけた。
「おそれながら、コマンダー。今、キーをタイプし間違えたように見えました。再度申し上げますが、命令コード2152です。」
ケイはわざと先ほどとは違うコードナンバーを告げた。兵士は再び、キーを叩いた。ケイが不完全ながら命令コード2152をでっちあげて、コマンドセンターの記録システムに書き込むのと同時に、兵士からの照会コマンドがやってきた。ケイは、命令コード2152の内容を途中まで渡すと、そこで一度兵士からの通信を強制的に切断した。
兵士は、自分の端末に通信エラーメッセージが表示されたのを見て、短く罵声を発しながら、再度キーを叩いた。その間にケイは、駐屯軍の組織構造を掌握し、もっとも説得力のあると思しき人物の認証を違法にコピーして、でっちあげのコマンドの末尾に加筆し、かなりそれらしい内容の記録を上書きしおえていた。
「分かった、この馬鹿でかい奴を移動しようというのだな?」
兵士は納得した様子で、念を押した。
「現在捜索中の逃亡者が取り戻しにくる可能性があるので、移動させよとのことです。」
ケイが返答すると同時に、ヤングドワーフに短く衝撃が走った。動力ジェネレーターと駆動軸が連結されたのだった。
「コマンダー、退避を願います。そこにおられては任務遂行に支障があります。」
兵士はあわてて、ヤングドワーフのタラップを駆け下りた。メカロイドは起用に左手で敬礼の姿勢を示しながら、右手で操縦コントローラーを手動操作し、開き始めた外壁扉に向けてゆるゆるとヤングドワーフを前進させた。
ホーリィは暗がりの中でスタイルヘルガーの銃把を握り締めながら、迫ってくる兵士達の人数を思い出して、簡単な算数の結果に心を曇らせていた。兵士は七人、スタイルヘルガーの装弾数は六発。どうしても一発足りない。予備の弾は持っているものの、装填しなおしている余裕があるかどうか。
「とりあえず、殴るか。」
ホーリィは、小さく呟くと、その手段を最初に行使するか最後にとっておくかで、また悩んだ。不意打ちは先にやったほうがいい、という至極単純な理由から、ホーリィはその原始的な攻撃行動を最初の一人に適用することに決め、スタイルヘルガーの銃身部分を握り直し、ラジアンモリブデン鋼から削りだした塊をハンマーのように持ち替え、相手がコンテナの角を曲がった瞬間にぶん殴ってやろうと、じりじりと移動しながら、死角で見えない相手との位置関係を想像していた。
あと、数メートルで、最初の兵士がすぐ目の前に現れて、でっかいたんこぶをこさえることになるだろう。スタイルヘルガーを握り締めている拳に力がこもり、ホーリィの右肩から右腕の筋肉が硬く緊張し、瞬発力を発揮する瞬間に備えて盛り上がった。
兵士は不意にコンテナの角から現れた。ホーリィは至近距離で相手の目線を見つめて対峙し、踊りかかろうと思った瞬間、違和感を感じ取った。
兵士の視線は、ホーリィのほうを向いていたが、ホーリィの向こう側を凝視していた。信じがたい事に、兵士はそこがまるでなにもない空間であるかのように、ホーリィが立っている一角をちらちらと見ただけで立ち去った。それに続く兵士達の目にも、ホーリィの姿は映っていないようだった。彼らは二言三言、この倉庫の状況を確認し終えると、ホーリィが目の前にいたにもかかわらず、彼を探して次なる探索エリアへと向かっていった。
「ラッキーって喜ぶには度を超えてるな。」
そう呟きながらも、ホーリィはメカニカルリボルバーを脇の下に戻した。少なくとも、無茶な使い方をして愛銃の銃身をゆがませるようなへまは回避できた。
その時、くすっという笑い声が背後でしたような気がして、ホーリィは振り返った。
「サシリエル?」
暗がりの中で浮かび上がるような鮮やかな銀髪と、神秘の輝きを湛えた灰色の瞳をもつ女性。ホーリィの背後に立っていたのは、紛れもなく、サシリエル・ミスシリアム・ヴォセバラミアだった。サシリエルは、右手を少し持ち上げて、挨拶代わりに軽く手を振った。
「なぜ、ここに? 今のは君が?」
サシリエルは答える代わりに、今度は左手に持っているガルティをそっと掲げて見せた。それから、何かの合図でもするように、右手の人差し指で、自分の左手首をこつこつと二度叩いてみせた。
「聞こえますか、ホーリィ。」
まるでタイミングを合わせたように、ホーリィの左手首に巻かれた通信端末越しにケイの声がした。ホーリィは一瞬そこに気をとられ、それからもう一度サシリエルを見た。
彼女の姿はすでにそこにはなかった。忽然と消えていた。
「なにかトラブルでも?」
ケイがもう一度、言った。
「あ、いや。トラブルというか、夢みてたというか。」
「いいえ、ホーリィ。あなたの生体データから判断する限り、覚醒状態でしたよ。それよりも、ヤングドワーフを取り戻しましたよ。すでに、移動中ですが、これからどうします?」
「俺のいる地点をスキャンして、適当な合流ポイントを割り出してくれ。そこで落ち合おう。なるべく目立たないところで、かつ、とっととこの場を立ち去れるところを頼む。とにかくゆっくり葉巻が吸いたい気分なんだよ、ケイ。」
ケイは、コマンドセンターを起点として、すでにこの野営地内の情報網をすべて掌握していた。現在の軍の動きと、それぞれのホーリィが現在潜んでいる建物との位置関係から造作もなく解答を見出した。
「了解、では移動用ナビゲーションマップを転送します。2分41秒後にそこでお会いしましょう。」
アレックス・ローランバーグは苦りきった表情を浮かべて壁際に立ち、軍司令官と士官のやりとりを眺めていた。続々と伝えられる、気にいらない報告内容に加えて、応急手当をほどこしたばかりの右肩の痛みが、ますます苛立ちを掻き立てていた。
「そんな指令コードは発行しておらんぞ。」
グランビア08方面軍統括司令官、ブラウギス・アテネメスは、こめかみの血管が浮き上がらんばかりの勢いで怒鳴り、そしてまた続けた。
「ともかく、追え。愚鈍な外輪トラックなぞ、すぐに追いつける。」
混乱は徐々に収束し、事態が見え始めていた。違法な指令コード振りかざして、あのばかでかいトラックは、まんまと、この野営地を抜け出し、グランビア大砂海へと逃げ出すことに成功した。しかも、その違法指令コードをアクセス履歴ごと跡形もなく消去して、だ。しかも同様の手口で、無意味な探索行動や出撃命令がいくつも発行されていた。要するに見事に霍乱されたのだ。
「とんだ失態ですな、司令官殿。」
アレックスは、左手で右肩をさすりながら、憤懣やるかたない表情の司令官に声をかけた。
「事態は明白化しつつある、一等情報武官。」
そもそもこの騒ぎの要因は誰だ、とでも言いたげな風情で、司令官は憮然として言い返し、つけくわえた。
「奴らがここを抜け出して、まだ二十分程しか経過しておらん。そう遠くまで逃げおおせたわけではない。それに、高度警戒スカウト機がすでに半径四百キロ圏をカバーしておる。発見するのは時間の問題だがね。それと…。」
司令官は睨みつけるようにして、さらに付け足した。
「今後は軍規に沿って対応する。君の任務の優先事項は本件に関して除外する。」
アレックスは、ご随意にとでも言うように、ちょっと肩をすくめて、その場を立ち去り、指令本部の建物の外に出た。明るみ始めた空を背景に、少し離れたところに停泊している航空母艦から飛び立った、三角翼の戦闘機の編隊が東へ西へとあわただしく飛び去っていった。地平線を見やると、砂埃が遠くに去っていくのが見えた。おそらくあれは、重火器を搭載したサンドバギーの部隊だろう。たかが運送屋風情を相手にこの騒ぎとは我が軍の質も落ちたものだ。
グランビア最高統合本部所属の情報武官は、そんなことを考えながら、自分の宿舎へと足を向けた。
「一山越えたけど、仕上げが必要だな。」
なつかしのヤングドワーフの運転席で、高級葉巻の煙をぷうっと吹き出しながら、ホーリィが言った。
「そうですね、いつ見つかっても不思議ではない時間帯ですね。」
ケイが相槌を打って、さらに付け足した。
「というか、たった今ばれちゃいましたよ、ホーリィ。」
ホーリィも、運転席のメインパネルに表示された光点に気がついていた。
「物騒な面々の到着予定は?」
「航空部隊で五分程度。地上部隊で十五分程度でしょうか。どうします?」
ホーリィは、もういちど、ぷうっと煙を吹き出してそれから言った。
「エス、ヤングドワーフの運転をケイから受け取ってくれ。ケイには別のを頼もうかな。」
ヤングドワーフの駆動軸のうなりが変化した。擬人化プログラムの変更にともなって、まるで人格が変わったようだった。
「ホーリィ、他に指示はないの? それともこのまま軍隊の標的になるつもりかしら?」
エスがいつもの調子の挑発的な口調で言った。
「そうだな。弾が飛んできたらかわしてくれ。簡単だろ?」
「口でいうのは、簡単ね。」
そういいながらヤングドワーフはさらに速度を上げた。時折、粉のような細かすぎる砂が高速回転する外輪とうまく折り合いがつかず、ずりっずりっとヤングドワーフの巨体が左右にすべる。
「そうそう、エネルギー遮蔽幕の使い方、マニュアル読んでおいてくれよ、エス。」
エスは、オーケーと場違いなほど気軽に返事をした。
「それで、私にはなにを?」
ケイがたずねる。
「キング、いってみようかなとおもうんだけど、どう?」
「それはまた、ひさしぶりですね。早速、軌道計算にはいりしょう。」
そういったきり、ケイは黙り込んだ。
「キングってなによ? ポーカーでもしようっていうの?」
ホーリィは、いまにわかるよ、とだけ言った。エスは、なにか気の利いた悪態をついてやろうと思ったが、それどころではなくなった。
「ホーリィ、空からお客さんが来たみたいよ。対地巡航ミサイル六基接近中。エネルギー遮蔽幕展開開始。」
ヤングドワーフを青く輝くエネルギーの球体が包みこむのと、ほぼ時を同じくして、ミサイルが次々と着弾した。ヤングドワーフは大きく揺らいだが、損傷はない。
「でも、そんなに長い間はもたないわよ、ホーリィ。なんとかしてくれない?」
「あとどのくらいだい、ケイ?」
ホーリーの質問にケイが即座に答える。
「コンタクトまで十三分四十秒プラスマイナス二十一秒。ただし、いまだ微修正中。」
「エス、お客さんのタイプは?」
「エアトリースマーティスリー六三ニ型強行艦上雷撃機。それで分かる?」
ホーリィは立ち上がって運転席の上部ハッチを開けながら答えた。
「分かるさあ。俺は意外と強いんだ、雑学に。」
そういうと、ホーリィはヤングドワーフ運転席天井に上った。エネルギー遮蔽幕を展開しているおかげで、風圧も砂埃も気にならなかった。右手にはメカニカルリボルバーを携えている。
「エス、弾道にあわせて、少しだけカーテンを開けてくれないかな。タイミングにあわせて、よろしく。」
「いいけど、そんな旧式の銃で何するつもり?しかも、擬人化プログラムなしでしょ?」
「自律こそしてないけど、こいつには、古典的制御プログラムが組み込まれてるんだぜ、エス。君ほど賢くないけどね。」
そういうと、ホーリィはメカニカルリボルバーにそっと唇を寄せてささやいた。
「射程優先、モードB。」
スタイルヘルガーの照星に組み込まれたランプが、まるで、了解とでもいうように赤く点灯した。次いで、ホーリィは、後方から急速に迫ってくる航空機編隊の航路の前方に向けて続け様に六発、発砲した。
四十八口径ショートミサイルカートリッジは、独特のシュオンという発射音とともに、自走式弾頭を打ち出した。エスが即座に弾道を計算して、そこだけ遮蔽幕に空白を作った。
高高度に達した弾頭は、ちょうど編隊飛行する航空機の鼻っ面で炸裂した。直撃した訳でもないのに何機かががくんと大きく高度をおとし、慌てて機体を立て直す。
「どういうこと?」
エスの疑問にホーリィが愉快そうに答える。
「簡単に言うと、軽く真空状態を作った。大気圏内では揚力で飛行してるからな、あれ。ちょっとはびびってくれたかな?
「どうかしらねえ? おかえしが来るみたいだけど?」
確かに、ホーリィにも別の追っ手が現れたのが見えた。砂煙を捲し上げながら、サンドバギーの群れが追い上げてくる。エスがつづける。
「その自慢の銃で追っ払ってくれない?」
ホーリィは運転席に降りてきながら言った。
「いや、ちょっとあれはきつい。エス、無減速停止のやり方、分かるかい?」
「ええと、はい、わかったわ。こんなこともできるのね! で、今するの?」
「空から第二波が、きたらやってくれ。」
ほどなくエスは航空部隊からのミサイル攻撃を再び検知した。
「無減速停止、発動します。」
エスの掛け声と同時に、ヤングドワーフはなんの前触れもなく、しかも、物理法則を無視するように、瞬時にその場に停止した。これに慌てたのは、追跡していたサンドバギー部隊だった。追っていた獲物に突然追いついてしまったのだから。何台かは、追突を避けるために右へ左へハンドルを切り、そして、混乱が発生した。ニ、三台かわしきれずにヤングドワーフのエネルギー遮蔽幕にまともにぶつかって、飛び散った。かろうじてかわした車両部隊も、肩透かしを食らった形の友軍のミサイルが飛来して、さらにパニックが広がった。その騒ぎを尻目に、ヤングドワーフは悠々と進路を変更し、別の方角に逃走をはじめていた。
「ちょっとした鬼ごっこね、でも、決定打にはならないわよ。」
ホーリィは、そうだねえ、と言ったあと、ケイを呼び出し、状況を確認した。
「進路確定なら、あと二分十三秒でコンタクト可能ですよ、ホーリィ。」
その時、ヤングドワーフに鈍い振動が走った。サンドバギー隊が体制を立て直しておいすがり、搭載している三十三ミリ重機関砲を一斉に打ち込んできた。
「これはたまらないわよ、ホーリィ。」
めずらしくエスの声は悲鳴じみていた。
ヤングドワーフを追撃していた、サンドバギー隊の兵士や強行艦上雷撃機のパイロットは、唐突に空が大きく揺らぐのを見た。大気がまるでなにかの形にそって凝結していくようだった。最初それはゆらゆらとゆらめき、急速に輪郭を質感を伴ってきた。
ヤングドワーフの上空に突如、巨大な飛行体が出現していた。その飛行体は太古の飛行船のようでもあり、宇宙船のようにも見えた。しかし、とてつもなく奇妙だった。上下に何枚かの昆虫のような羽根が見えた。しかし、より多くの者の目を引いたのは、まるで猛禽類のもつような鉤爪のついた足だった。しかもそれもまたとてつもなく巨大で、しかも一本足だった。
飛行体は、降下し、まるで獲物を捕らえるその鉤爪でヤングドワーフを鷲掴みにし、そして、再び空へと舞い上がった。巨大なヤングドワーフがまるで、鷹かなにかにつかまった鼠のように見えた。それほど飛行体のスケールは大きかった。
そして、その飛行体は出現シーンを逆にたどるかのように、ヤングドワーフをかかえたまま、輪郭と質感を薄めながら、大気の中へと溶けていった。
「どういうことなのおおお?」
エスの問いかけに答えたのはケイだった。
「キングドワーフですよ。ヤングドワーフ専用のドロップシップです。もっとも今回は回収オペレーションでしたが。」
エスをかかえあげながら、そう説明するケイの言い回しは、なぜか、ちょっとだけ得意げに聞こえた。
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