彼ら古バラミア人が、何処から何の目的でこの世界に現れたのか、今となっては知ることはできない。しかし、彼ら古バラミア人がここにたどり着いたとき、世界はすでに出来上がっていた。
天体はすでに成熟し、規則正しく運行されていたし、最強捕食者ヴォッサを頂点とする食物連鎖も完成されていた。
これはすなわち、神々の如き力を有した古バラミア人たちですら、実は創り主の手による所産であったことを示唆している。事実、彼らは創り主というよりも、世界に対する種の蒔き手として、また蒔いた種を見守る眺め手として振舞うことを好んだのである。
彼らが蒔いたのは、ヒトの種だった。そして蒔かれたヒトの種は、滴り落ちる雫が大河の奔流となるかの如く星界中に溢れ出し、彼らの手なる文明や文化が森や林の如く星界中を覆って行くことになる。
古バラミア人のこの種蒔きは、なにも興味本位から出たものではない。むしろそれは古バラミア人たちがこの星界に根付くために必要な仕事だったのである。
古バラミア人は、老齢を知らない種族であったが、これは彼らの強みでもあり弱みとも言えた。なぜならば、周りの自然環境は容易にかつ頻繁に変容するのに対して、彼ら自身はもっとずっと緩やかな速度でしか世代交代ができなかったからである。
そこで、彼らは自らと自然の間の仲介者としての存在を欲し、ヒトという種を蒔かざるを得なかったのである。
このような経緯から、ヒトは古バラミア人を畏怖と崇拝の対象として捉えたが、古バラミア人は必ずしもヒトを自らに隷属する存在とは考えていなかった。むしろ、ヒトが繁栄することで、古バラミア人をも内包した新しい星界秩序・自然体系の枠組みが発展するとみなしていた。
こうして、この星界に初めての古バラミア人とヒトの連合社会からなる文明国家が誕生した。これが今日ネウインベーグ神聖帝国と呼ばれる最古代国家である。古バラミア人は事実上そこに君臨していたが、統治はしていなかった。ヒトは事実上バラミア社会を支える礎となったが、バラミアの奴隷という訳でもなかった。
何万年かが過ぎる頃までは、古バラミア人とヒトは、うまくやっていた。
そのころには、ヒトの社会はより多様化し複雑化して、大きく広がっていたが、古バラミア人は、一箇所にとどまったままだった。
しかし、こうした関係に楔を打ち込む者が、あろうことか古バラミア人の中から現れ、新しい時代の幕があげられた。
今日、我々はこの星界のことをネビュラと呼んでいる。
ネビュラはもともと星の雲を意味する言葉だったと言われているが、いつの時代・どこの国・どんな人々の言葉であったのかは、古バラミア人の来歴と同様、我々には伝えられていない。しかし少なくとも、古バラミア語でないことだけは確かめられている。
ネビュラという言葉は、もしかするとこの世界に残された数少ない創り主たちの言葉の一つなのかもしれない。
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